ISO 9001とは?メリットの実際のところや形骸化を防ぐ方法を解説【体験談あり】

ISO 9001とは?メリットの実際のところや形骸化を防ぐ方法を解説【体験談あり】

こんにちは。大手製造業の品質保証部で働いているかばたあきこです。

1年ほど前から副業でwebライターをしており、本業で得た知識を活かしながら品質マネジメントシステムなど品質保証に関わる記事を執筆しています。
今回はISO 9001について、Twitterでお聞きした体験談や個人的な見解についてお話します。
ISOって何?という方でも読みやすく、かつISO 9001の対応に追われたご担当者の方でも面白く読んでいただける内容かと思いますので、ぜひ最後までお読みください!

そもそもISO 9001って何?

ISO 9001は品質マネジメントに関する国際規格です。ISOの認証機関の審査を受けて認証を取得します。ISO 9001の認証を取得した企業は「品質マネジメントを実施している企業である」という国際的な証明になります。
…というのが一般的なISO 9001の説明になりますが、説明の意味が分からない方のために順を追ってご説明します!

標準化とISOとJIS

ISOについてお話しする前に、まずは「標準化」について説明します。
標準化とは、形や寸法などを揃えてみんなが使いやすくするための決めごとです。
例えばキーボードのキー配列がどこのメーカーでもほとんど同じなのはご存じですか?

これはキーボード配列が「標準化」されているからです。

この標準化した決まりごとを「標準規格」といい、音楽CDがどこの国でも聞けたり(JIS S 8605)、どこの国で生産されたネジでも使用できたり(ISO 68)、非常口のマークが決まっていたりする(ISO 6309)のも標準規格の一例です。

そして、この標準規格を定めているのがスイスのジュネーブにあるISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)という非政府機関です。

一方、このISOの規格を日本国内用に翻訳したものがJIS(Japanese Industrial Standards、日本産業規格)です。製品のパッケージ裏にJISマークが表示されているのは見たことがあるのではないでしょうか?

このように標準規格は私たちの生活に欠かせないものです。
そして標準規格が定めているのはモノの形や寸法だけではありません。「マネジメント」つまり会社の中の決めごとにも標準規格があるのです。

マネジメント規格

マネジメント規格とは会社や組織のルールに関する標準規格です。
例えば設立したばかりの小さな会社では社長が全てを把握できますが、会社が大きくなり従業員が何百人と増えてくると従業員全員が同じ目標に向かっていくのが難しくなります。従業員が同じ目標を目指すにはルールが必要です。

このような社内ルールに関する規格がマネジメント規格です。例えば組織が大人数になると様々な部署ができますので、部署ごとの責任や権限を明確にすることなどが求められます。

マネジメント規格にもさまざまな種類があり、品質に関するマネジメントであるISO 9001、環境に関するISO 14001、情報セキュリティに関するISO 27001などがあります。

ISO 9001は「品質マネジメントを実施企業」という国際証明

ここまでお話したようにISO 9001は品質に関する企業のルールに関する規格です。ISOは各国に「ISO 9001の要求事項を満たしているか審査し、合否を判定する」ための認証機関を置いています。ISOの認証を受けたい企業は、この認証機関に依頼をして要求事項を実施しているか審査を行ってもらいます。そして十分に要求を満たしていると判断されれば、「ISO 9001に適合した企業である」として認証を取得できます。
すなわち、ISO 9001を取得している企業は「品質マネジメントを実施している企業である」という国際的な証明になります。

ISO 9001の内容

次にISO 9001の代表的な項目を列挙します。

・経営の状況を分析し、目標と計画を立てること
・品質目標を策定し従業員に周知する方法を定めること
・計画を実行するための資源(設備、環境、従業員、従業員への教育)を明確にすること
・従業員が社内の別部署を監査すること(内部監査)
・計画の達成状況を経営層に報告する場を持つこと(マネジメントレビュー)
・上記の記録を残すこと

意外とどこの企業でもやっていそうな内容ではないでしょうか?
ただ忙しい日常業務の中でこれらを漏れなく行うのは難しいですよね。そこでISO 9001のような体系化された要求事項を通して日々の仕事の流れをチェックしていき、過不足を整備していくのが非常に重要です。
自分は、このような仕事の流れのチェックと改善こそがISO 9001による品質マネジメントの活動であると理解しています。

ISO 9001取得企業の例や最新の取得企業数

ISO 9001は世界170か国以上、100万以上の組織が認証を取得しており、日本国内でもピーク時は4万以上の組織が認証を取得していました。
下記に取得を公表している企業の一例を示します。

・旭化成株式会社
・三井住友建設株式会社
・日本道路株式会社
・三菱自動車工業株式会社
・ユニ・チャーム株式会社

しかし日本国内のISO 9001の取得企業数は2007年以降減少傾向で、2023年現在の取得企業数は約2.5万。文書管理に負担を感じるなどの理由から認証を返上する企業もあるようです。
後述しますが、このような状況に陥るのは2000年以前に取得した文書管理中心のISO 9001のまま運用しているためだと考えられます。

ISO 9001のメリットデメリットの実際

メリットに関する実際1. 社外への高品質アピール効果

よくISO 9001に関するwebメディアでは「ISO 9001のメリットは社外への高品質アピール」とありますが、先ほど書いたように取得企業数は約2.5万社。個人的な見解ですが、ある程度以上の規模の企業ではアピールというよりは取得していて当たり前という感覚です。

実際、顧客が業者へ監査を行う際にISO認定証を求められたり、ISO 9001の認証が取得がなければ業者ランクで大幅な減点になる場合があります。また建設業界などでは公的な仕事を受注するのにISO 9001が必要な要件となる場合もあるそうです。

さらに業界によっては、ISO 9001をベースにしたセグメント規格という業界ごとの品質マネジメント規格があります。セグメント規格の制定に業界団体が大きく絡んでいますと、その業界団体と取引をするのにISO 9001+セグメント規格の取得が必須要件となる場合があります。

以上から、ISO 9001は高品質アピール効果のメリットより、取引に最低限必要だというデメリットを防ぐ役割の方が大きいと感じます。

メリットに関する実際2. 「ISO 9001を取得すれば品質向上する」は誤解

「ISO 9001を取得したけど品質が向上しない!逆に作業員の負担が増えて品質事故につながる!」なんてセリフを聞いたことがあります。
しかし、ここまでお話したようにISO 9001は「マネジメント」の規格ですから、取得しただけでは品質は向上しません。
私は、ISO 9001は品質をよくするための道をつくるための「道しるべ」のようなものだと思っています。いくら道しるべにしたがって道をつくっても、その道をきちんと歩いてもらえなければ、どこへもたどり着けません。
ISO 9001自体に品質は向上しません。ISO 9001の活動を通じて具体的な品質改善活動を行っていくことが重要です。

このようにISO9001を取得しただけでは品質は向上しないのです。

デメリットに関する実際1. Twitterで聞いたISO 9001体験談

さてここからは私がTwitterで聞いたISO 9001の体験談をご紹介します。どれもこれもゾッとするような話です(笑)

・記録用紙に使用した跡をつけるため1枚ずつ手で握って汚した。
・1回ミーティングで話しただけで身についたことにして、氏名だけの大量の教育記録を作成した。
・注文書や受領書、検査成績表を確認した記録を作るため、1年分さかのぼって押印をした。
・品種ごとに指示書を発行するが、その品種が生産終了になっても指示書だけはいつまでも残り続ける。指示書だけで数千以上、なんてことも。
・だれも削除の判断をくだせないので文書が増え続ける。

「ISO 9001の無駄だと感じた作業を教えてほしい」と募集をしましたが、形骸化した文書記録に関する不満が多く集まる結果になりました。

デメリットに関する実際2. ISO 9001が形骸化する理由

2000年以前のISO 9001は大手製造業向けの文書化によるものづくりという側面が大きかったとのこと。ISO 9001が形骸化する企業は、その頃の名残で文書記録が重視される仕組みをいまだに踏襲している事例が多いようです。
しかしISO 9001は2000年に規格の大改訂があり、企業の業種や規模に関係なく運用できる品質マネジメントシステム規格になりました。この改訂に対応した品質マネジメントシステムを構築すれば、形骸化を防ぐことができます。

ISO 9001の形骸化を防ぐ方法

1.  最新の要求事項を理解し社内ルールを整備する

ISO 9001は2000年の大改訂後にも何度も改訂され、最新版の2015年度版では幅広い業種に対応できるようさらに自由度が高くなりました。この最新版のISOの要求事項を理解し、過去の社内ルールの整備を進めていけば、形骸化を防げると言われています。

2.  必要に応じてコンサルを使う

最新版のISO 9001は自由度が高いぶん解釈に幅が生じるため、実際どう自社に落とし込めばいいのか戸惑う場面が多いと思います。

このような要求事項を理解するのが難しい場合にはコンサルを使うことをおススメします。コンサルは様々な企業のISO 9001の具体的な落とし込みに関するノウハウを所有していますので、要求事項の理解や自社ルールへのカスタマイズで非常に頼りになります。

また古いISOシステムを刷新する際もコンサルはおススメです。一度過去に決まったルールをなくしたり簡素化するのはいち平社員にはなかなか骨の折れる作業ではありませんか?こういう時こそ伝家の宝刀「コンサルも言ってました」で、刷新作業を進めるという方法もあります。

3.  一部のISO担当者だけで対応しない

形骸化を防ぐ一番重要なことは、一部のISO担当者だけで対応しないことです。

ISO 9001はマネジメントの規格ですので、それぞれの階層で必要なルールを理解し実施するのが非常に重要です。企業の全員がISO 9001に参加し、一部の担当者だけで対応しないように心がけましょう。

まとめ

ISO 9001は品質を向上させるため、過去の様々な企業の取り組みを一般化し要求事項として落とし込んだ過去の叡智の結晶です。使いこなすのはなかなか難しいですが、ISO 9001を前向きに捉えていただけるとうれしいです。

また下記の経済産業省の高校生向けの資料が非常に分かりやすかったのでリンクを貼っておきます。ぜひ参考にしてください。経済産業省‗標準化教室

参考資料

公益財団法人 日本適合性認定協会 (jab.or.jp)

JISC 日本産業標準調査会

日本規格協会 JSA Group Webdesk

ISO 9001:2015(JIS Q 9001:2015) 要求事項の解説 (Management System ISO SERIES) | 中條 武志, 棟近 雅彦, 山田 秀, 品質マネジメントシステム規格国内委員会

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